難燃性樹脂選定のポイントと規格解説

樹脂材料の難燃性・自己消火性は、製品の安全性確保において極めて重要な特性です。特に電気・電子機器や自動車部品では、火災リスク低減のため、適切な難燃性を持つ材料選定が不可欠です。しかし、環境規制の強化や性能要求の高度化により、難燃性樹脂の選定はますます複雑になっています。本記事では、難燃性の基礎から評価方法、最新の技術動向まで、材料選定に必要な情報を体系的に解説します。UL94などの重要規格や、代表的な難燃性樹脂の特性を紹介し、最適な材料選定のポイントを明確にしていきます。

目次

樹脂の難燃性・自己消火性とは?

難燃性とは?

難燃性とは、樹脂や他の材料が火に対して抵抗力を持ち、燃焼しにくい特性を指します。具体的には、外部からの熱や火炎に対して、着火しにくく、燃焼の進行を抑制する性質です。プラスチック材料は本来、炭素と水素を主成分とする有機物であるため、可燃性を持っています。しかし、様々な技術により難燃性を付与することで、安全性の高い材料として使用することが可能になります。これは、製品が火災の発生や拡大を防ぐために重要な特性です。特に、電気・電子機器や自動車などの製品では、安全性を高めるために重要視されます。難燃性のある樹脂は、火がついても燃焼しにくく、自己消火性を持つことがあります。

自己消火性とは?

自己消火性とは、材料が燃焼を始めた後、自身でそれを消火し、燃焼を持続させない特性を意味します。具体的には、火源が取り除かれた後、樹脂が自ら燃焼を止め、燃え広がることがない状況を指します。外部からの消火行為を必要としないため、より高い安全性を提供します。難燃性は燃え広がる速度を遅らせる性質も含みますが、自己消火性は、燃焼の継続を抑制する性質に特化しています。自己消火性を持つ樹脂は、万が一発火した場合でも、被害を最小限に抑えることができます。

なぜ重要なのか?

難燃性と自己消火性は、使用環境や安全基準に適合するために極めて重要です。火災が発生した際のリスクを軽減し、製品がより安全に使用されることを保証します。また、規制に適合するためにも、これらの特性を持つ材料の選定が必要です。特に、プラスチック製品が多用される現代の産業では、各国の環境規制や安全基準に準じた材料選定は必須です。

難燃性・自己消火性付与のメカニズム

樹脂の難燃性は、化学構造や材料特性等によって決まります。そこからさらに樹脂に難燃性を付与する方法は、主に以下の3つのアプローチがあります。それぞれのメカニズムについて詳しく解説していきます。

難燃剤の添加

難燃剤は、樹脂に火をつけても燃焼が持続しないようにするために使用されます。これには、ハロゲン系、リン系、無機系など様々な種類がありますそれぞれ異なるメカニズムで燃焼を防ぎ、自己消火性を持たせる効果を発揮します。例えばハロゲン系難燃剤は、熱分解時に不燃性ガスを発生させ酸素を希釈・遮断したり、リン系難燃剤は燃焼面を炭化物の層が覆って酸素の供給を遮断したりすることで燃焼を抑制します。添加される難燃剤の種類と量によって、樹脂の物性や燃焼特性が変わるため、慎重に選定する必要があります。

樹脂配合の調整

樹脂の配合を調整し、難燃性を高めることも可能です。例えば、充填剤を添加することで、樹脂の熱伝導率を変化させ、燃焼速度を抑制することができます。また、ベース樹脂に難燃性の高い材料を混合したり、特殊なポリマーを使用したりすることで、耐燃性が強化されることがあります。この方法により、製品の要求に対し、適切な性能を持たせることが可能です。

添加剤による相乗効果

難燃性を持たせるためには、相乗効果を持つ添加剤の使用も効果的です。例えば、ハロゲン系の難燃剤とリン系難燃剤を組み合わせて使用することで、より強力な難燃性を発揮させることができます。添加剤の相乗効果を理解し、この相乗効果をうまく利用することで、より少ない添加量で高い難燃性を実現することもできます。

難燃性樹脂の選定における考慮事項

難燃性規格

難燃性樹脂を選定する際は、規格に準拠することが重要です。 UL94などの規格を参考に、必要な難燃性レベルを選択します。UL94は、プラスチック材料の難燃性を評価する最も一般的な規格であり、試験方法とその結果から、V-0、V-1、V-2といった等級で分類されます。製品の用途や使用環境に応じて、適切な難燃性レベルを選択することが重要です。規格に従って製品を評価することで、期待される性能が発揮され、適切な難燃性を確保できます。

環境規制

環境意識が高まる中で、RoHS指令やREACH規則などの環境規制に準拠することも重要です。これらの規制は、特定の有害物質を制限し、安全で環境に優しい製品を提供することを目的としています。難燃剤の中には、これらの規制対象となる物質が含まれている場合があるため、選定時には環境規制への適合性を十分に確認する必要があります。

加工性と機械的特性

難燃剤の添加により、樹脂の流動性や成形性が変化することがあります。そのため、加工プロセスに適した材料を選び、効率的な製造を可能にすることが必要です。材料の選定には、実際の製造プロセスでの試験を行うことが有益です。また、難燃剤の添加は樹脂の機械的特性にも影響を及ぼすことがあります。例えば、強度や弾性率が変化する場合があります。これらの特性は、最終製品の性能に直接影響を与えるため、慎重に検討する必要があります。

耐熱性

使用温度範囲における難燃性の維持を確認し、必要な耐熱性を確保することも重要です。特に、高温環境で使用される製品の場合、耐熱性が重要な要因となります。

コスト

難燃剤の種類や添加量によりコストが変動するため、コストパフォーマンスを考慮して材料を選定することが大切です。他の考慮事項を踏まえつつ、最適な難燃性を最小のコストで達成するために、効果的な配合や添加方法を検討します。

難燃性・自己消火性樹脂の試験方法

先述した通り、UL94はプラスチック材料の難燃性評価で広く用いられる米国の規格です。UL94は、規定の試験片を規定の手法で実際に燃やし、炎が消えるまでの時間等の状況からランク付けを行うことが特徴です。そのための試験片形状、状態、火源、燃焼法、燃焼状態によるランク付け、判定法が綿密に規定され、公表されています。UL94の各試験と等級について簡単に説明します。

UL94 水平燃焼試験

水平燃焼試験では、試験片を水平に配置し、一端から炎を与えて燃焼の伝播を評価します。ここでは、燃焼が材料全体にどの程度速く広がるか、または炎がどの程度持続するかを測定します。水平燃焼試験は、簡易的な難燃性の評価に用いられます。燃焼速度が規定値以下であることが認められると、HB(Horizontal Burn)等級として評価されます。多くの場合、後述する垂直燃焼試験と組み合わせて評価が行われます。

UL94 垂直燃焼試験

垂直燃焼試験では、試験片を垂直に設置し、下側から一定の炎を直接当てて評価します。この試験により、燃焼時間や滴下物の有無、綿への着火の有無などから難燃性を評価し、V-0、V-1、V-2のいずれかの等級を取得します。V-0が最も難燃性が高い等級となります。V-0を取得するためには、燃焼時間が10秒以下、滴下物による綿への着火がないことなど、厳しい基準をクリアする必要があります。難燃性が重要となる場合、この規格への適合が必須となることが多いです。

UL94 5V試験

5V試験は、垂直燃焼試験のさらに厳しい基準となります。5V垂直燃焼試験と平板燃焼試験の2種の試験で評価されます。試験片は、短いスパンで繰り返し火源にさらされ、火炎の持続性および試験片の後部にある綿への影響や、試験片の状態が評価されます。5VAおよび5VBのクラスに分類され、5VAがより厳格な基準を満たします。これは公共の安全に関する製品の素材に特に適用されます。

UL94規格の試験と等級 簡易まとめ

  • 燃え広がる速さと持続を見る水平燃焼試験
    等級 HB:標線到達前に燃焼が止まる、もしくは燃焼速度が規定以下である
  • 火が消えるまでの時間や様子をみる垂直燃焼試験
    等級 V-2:燃焼時間30秒以内、滴下物の着火あり
       V-1:燃焼時間30秒以内、滴下物の着火なし
       V-0:最も厳しい基準。燃焼時間10秒以内、滴下物の着火なし
  • 大型製品など特に高い難燃性が求められる用途を想定した5V試験
    (5V垂直燃焼試験と平板燃焼試験の2試験で判断)
    等級 5VB:V-0かV-1に適合した上、5V垂直燃焼試験の規定を満たし、平板燃焼試験で孔が開く
       5VA:V-0かV-1に適合した上、5V垂直燃焼試験の規定を満たし、平板燃焼試験で孔が開かない

※V-2以上は自己消火性を持ちます


これらの試験方法を通じて、樹脂の難燃性を客観的に評価することができます。製品の用途や求められる安全レベルに応じて、適切な試験方法を選択し、必要な難燃性等級を満たす材料を選定することが重要です。UL94規格以外にも、酸素指数(OI)など、様々な難燃性の規格が存在します。必要に応じて、複数の規格を比較検討することで、より適切な材料選定が可能になります。

代表的な難燃性・自己消火性樹脂

PEEK

PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、高い耐熱性と難燃性を持つ高機能樹脂です。過酷な環境下でも安定した性能を発揮し、自動車や航空機の部品、電子機器や半導体製造で使用されています。

PEEKの基本特性

  • 耐熱性が高い(連続使用温度250度)
  • 難燃性(UL94 V-0)
  • 高い機械的強度と耐薬品性
  • 優れた耐摩耗性
  • 優れた電気絶縁性

PEEKについてもっと詳しく知りたい方はこちら!

PPS

PPS(ポリフェニレンサルファイド)は、化学的耐性と難燃性に優れた材料です。温度変化にも強く、電子部品や機械部品に広く採用されています。

PPSの基本特性

  • 耐熱性に優れる(連続使用温度220℃)
  • 難燃性(UL94 V-0)
  • 高い寸法安定性
  • 優れた耐薬品性

PPSについてもっと詳しく知りたい方はこちら!

テフロン(PTFE)

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、通称テフロンは、優れた耐熱性と難燃性を持ちます。調理器具のコーティングや機械部品の潤滑剤として使用され、摩擦が少なく高温に強い特徴があります。

テフロン(PTFE)の基本特性

  • 耐熱性に優れる(連続使用温度260℃)
  • 難燃性(UL94 V-0)
  • ほとんどの薬品に侵されない耐薬品性
  • 低摩擦係数
  • 優れた電気絶縁性

テフロンについてもっと詳しく知りたい方はこちら!

その他

その他の代表的な難燃性樹脂には、V-0:PVC(塩ビ/ポリ塩化ビニル)、HB:PC(ポリカーボネート)などがあります。スーパーエンプラは総じてV-0等級のものが多く、エンプラはHB等級のものが多いです(UHMWのような可燃性樹脂も存在します)。それぞれの材料が持つ特性を評価し、使用環境や製品の要求に合わせて最適な材料を選定することが重要です。
加えて材料選定と同様に、作成する樹脂製品の形状や厚さにも気を付ける必要があります。表面積が大きいほど酸素との接触面積が増えるため、燃えやすくなります。また薄肉製品は厚肉製品よりも燃えやすい傾向があります。難燃性の等級が高い物を選ぶだけでなく、製品を燃えにくい形状にすることができれば樹脂の難燃性がより優れた形で発揮されます

次世代の難燃性・自己消火性技術

環境配慮型難燃剤

次世代技術として、環境に配慮した難燃剤の開発が進んでいます。特に、有害物質を含まない非ハロゲン系難燃剤が注目されています。例えば、ナノサイズの水酸化アルミニウムを用いた難燃材では、粒子の微細化と表面処理技術の最適化により、少量添加で高い難燃効果を実現することが可能になっています。これにより、樹脂本来の機械特性を維持しながら、必要な難燃性を付与することができます。また、表面処理技術の進歩により、無機系難燃剤と樹脂との相容性が向上し、長期信頼性の面でも優れた特性を示すようになっています。

バイオマス由来樹脂

再生可能なバイオマス由来の難燃剤も注目されています。リグニンやセルロース、タンニンなどの植物由来成分を活用した難燃材は、CO2排出削減や環境保護の観点からも有用です。これらの天然由来成分は、熱分解時に炭化層を形成し、効果的な難燃性を発揮します。さらに、これらの成分は再生可能資源であり、環境負荷の低減に大きく貢献することが期待されています。

ナノテクノロジー

ナノテクノロジーを利用した難燃性強化技術も、近年注目されています。ナノクレイやカーボンナノチューブなどのナノ材料を用いた技術では、極めて少量の添加で効果的な難燃性を付与することが可能です。特に、これらのナノ材料は樹脂中で独特のネットワーク構造を形成し、物理的なバリア効果と化学的な難燃効果を同時に発揮することが確認されています。また、表面処理技術の革新により、ナノレベルでの表面改質も可能になっています。自己組織化膜やセラミックナノコーティングなどの技術を用いることで、樹脂表面に極めて薄い難燃層を形成することができます。これらの技術は、樹脂本来の特性を維持しながら、効果的な難燃性を付与することが可能です。

これらの新技術の実用化に向けては、まだいくつかの課題が残されています。特に、コスト競争力の確保や量産技術の確立、品質の安定化などが重要な課題となっています。また、新しい材料システムの評価技術の標準化も必要とされています。しかし、これらの課題に対しても、産学官での共同研究や技術開発が積極的に進められており、近い将来、より安全で環境に優しい難燃性材料が実用化されることが期待されています。特に、カーボンニュートラルへの対応や循環型社会の実現に向けて、これらの新技術が果たす役割は極めて大きいと考えられています。

まとめ

樹脂の難燃性・自己消火性は、製品の安全性を向上させる重要な特性です。難燃剤の添加や樹脂配合の調整により、材料を高性能化することが可能です。また、次世代技術の導入により、環境に優しい難燃材料の開発が進んでいます。これからの製品開発において、難燃性樹脂の選定は、規格への適合や環境負荷の削減を考慮した戦略的な決断であり、製品の競争力を高める鍵となります。

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よくある質問

自己消火性と難燃性の違いは何ですか?

難燃性は、燃焼しにくくする性質のことで、自己消火性は、着火しても火源を取り除くと燃焼が停止する性質のことです。自己消火性は難燃性の一種と言えます。UL94規格では、一般的にV-2以上の等級で自己消火性を持つとされています。

樹脂に自己消火性を持たせるにはどうすれば良いですか?

難燃剤を添加する方法が一般的です。樹脂の種類や用途に応じて、適切な難燃剤を選択する必要があります。リン系難燃剤やハロゲン系難燃剤などが自己消火性を付与する際に使用されます

難燃性樹脂を選択する際、最も重要な規格や基準は何ですか?

最も重要な規格はUL94規格です。特にV-0、V-1、V-2等の垂直燃焼性試験の基準が広く採用されています。電気・電子機器では、この規格への適合が必須となることが多く、製品設計の初期段階で要求グレードを確認することが重要です。また、各国の規制や業界標準にも注意が必要です。

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